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心って「盗め」るの? 類義語「盗む」と「奪う」について考えてみた。

数日前に演習の授業で「ぬすむ」と「うばう」の違いについて考える機会を得まして。そこで色々考えたから、ここに書き留めておこうかなと今回はパソコンを立ち上げた次第。色々とメモしたプリントを眺めているんだけど、何を書いているのかよくわからない状態に……。まあ、頑張ってまとめてみることにする。

この記事を書くにあたって、ネット上で簡単なアンケートを取らせていただきました。ご回答くださった皆様、ありがとうございます! その結果については、途中の方で書きたいと思いますので、まあ他のところも読みながら待っててください。

ぬすめるもの、うばえるもの

さて、授業では「ぬすめるもの」「うばえるもの」「ぬすめるし、うばえるもの」の三種類に対象を分類した。両方できるものは、宝石、お金、自転車、美術品、車、などなど。ここで、ちょっと怪しいなという風になったのが「下着」。下着泥棒は下着を「ぬすむ」わけだけども、下着を「うばう」って何かちょっと変な気がする。

どうして変だと感じるのだろうか。下着を「ぬすむ」というと前述したように下着泥棒が想起されるわけだが、「うばう」だとどんな状況が思い浮かぶだろか? 穿いているパンツを無理やり脱がしているような感じがしないだろうか。そうなる状況というのはごく稀だろう(下着泥棒なんてよくあることだ、と言いたいわけではないけれど)。

ここで、「ぬすむ」と「うばう」の意味の違いが見えてくるだろう。「ぬすむ」はこっそりとやっているイメージがあるのに対して、「うばう」には強引にやっているイメージがある。これはまず基本的な違いとして認定しても良いだろう。

ただ、個人的には「こっそり奪う」とか「強引に盗む」ってそれほど不自然な表現なのかな? と思うところがあって。自分の言語直観が信用できないときは他の人に聞いてみるのが一番かなと思い、皆様にアンケートをとらせていただいた次第です。

アンケート結果

そのアンケート内容は以下の通り(属性を問うものと自由記述欄があったけど、省略します)。それぞれの質問に対して、「自然」「まあ自然」「やや不自然」「不自然」の4つの中から一つを選んで回答してもらった。


次の文章を読んで、あなたはどう感じますか? 4つの選択肢の中から最も適切なものを選んでください。
・彼はダイヤの指輪をこっそり盗んだ。

次の文章を読んで、あなたはどう感じますか? 4つの選択肢の中から最も適切なものを選んでください。
・彼はダイヤの指輪をこっそり奪った。

次の文章を読んで、あなたはどう感じますか? 4つの選択肢の中から最も適切なものを選んでください。
・彼はダイヤの指輪を強引に盗んだ。

次の文章を読んで、あなたはどう感じますか? 4つの選択肢の中から最も適切なものを選んでください。
・彼はダイヤの指輪を強引に奪った。


今回の質問は、意図がバレバレだったかなあと思います。あと、設問をもう少し増やせばよかった(後ほど書くけれど、抽象物だとまた違った感じになってくるので)。

で、結果は次のようになった。ちなみに、167人の方々にご回答いただきました。


こっそり盗む
自然81.4%
まあ自然12.6%
やや不自然4.2%
不自然1.8%

こっそり奪う
自然7.8%
まあ自然14.4%
やや不自然40.7%
不自然37.1%

強引に盗む
自然11.4%
まあ自然28.1%
やや不自然34.7%
不自然25.7%

強引に奪う
自然92.8%
まあ自然6.0%
やや不自然0.6%
不自然0.6%


結果はかなり予想に近いものになったかなあ、と。「こっそり盗む」と「強引に奪う」は自然に感じる人が多い。「こっそり奪う」と「強引に盗む」で比べると、後者の方がやや許容度が高い。

今回のアンケートの主眼は主に「こっそり奪う」と「強引に盗む」の許容度を調べてみることにあったんだけど、「まあそこそこ許容される」という感じに落ち着きそうだ。

自由記述欄を眺めてみると、それぞれの行動に対して想起した状況が違うようだ。「こっそり盗む」は「空き巣」みたいなイメージだろうけど、「強引に奪う」は強盗の現場を想像した人が多いはずだ。「こっそり奪う」とか「強引に盗む」が「自然」だと回答した人は、どういう状況を想像したのかとっても気になる。

こっそり奪う、強引に盗む

「こっそり奪う」が「自然」だと答えている方の感想を一つ引用させていただくと
盗んだは気づかれないようにというイメージで
奪ったはあまり関係ないイメージ

ということだった。勿論、「こっそり奪う」が「自然」だと答えた人が全員同じ考えを持っているわけではないだろうけど、これは面白い答えだと思う。この質問においては、「奪う」の方が上位概念だということになる。そこに「気づかれない」というファクターが加わったときに、「盗む」という言葉が使われるようになる。アンケート結果を見た限り多数派の意見とは言えないようだけれど、言われてみれば何となく分かる人も居るんじゃなかろうか。

対して、「強引に盗む」が「自然」だと答えた人は
奪うという言葉には静かさを感じない

と書いてくださっていて、ここから推察するに「盗む」の方が上位概念だと考えているようだ。「こっそり奪う」よりも「強引に盗む」の方が許容度が高かったことを考えるならば、「盗む」の方が上位概念であり、「奪う」を包括すると考えている人がやや多いのかもしれない。

「抽象物」について考える

さて、ここまで具体物について考えてきたけれど、少し抽象物についても考えてみよう。
というのも、「奪う」としか言えないものの中には抽象物が多いのだ。例を挙げると、権力、やる気、命、体力、自由など。

ダイヤの指輪は「盗め」るし「奪え」る。しかし、権力を「奪う」ことはできても「盗む」ことはできない。相手の知らないうちに自由を制限することに成功したならば、「相手の自由をこっそり奪った」なんて言い方もできるのではないだろうか。

このように、抽象物になると事情が変わってくるようである。具体物においては主に相手に「気づかれているか(こっそり)」「気づかれていないか(強引に)」に主眼が置かれていたけれど、それでは解決できない。

また、「盗む」ことしかできないものとして挙がったものに関しても抽象物が多い。曰く、データ、情報、アイディアなどなど。「データ」を奪うって何だかおかしい。

ここで、「盗む」と「奪う」が持つ共通の性質について確認しておきたい。おそらく、「他人のものを許可なくとること」という風にでもなるだろう。で、抽象物において違っていることは、「とった」ものが残るか否かということである。

データや情報、アイディアは「盗ん」だところで相手の元に残ったままだ。英語で言うならば「copy」に相当すると思う。対して、奪ったものは相手の元からは失われてしまう。

このことは、対象が「技術」である場合を想定すると分かりやすいように思う。「陶芸の技術を盗んだ」というと、弟子が師匠の手法を真似て自分のものにするような場合が想起される。対して、「陶芸の技術を奪った」というと、陶芸を生業としている人の腕を再起不能にしてしまったような場合が想定される。

「自分のもの」になるか否か

それから、抽象物を対象にした場合にはもう一つ違いが生まれる。それは、「奪」ったものは必ずしも自分のものにはならないということだ。「権力」なんかは奪っても自分のものになるけど、「自由」や「体力」「やる気」なんかは奪ったところで自分のものになるわけでは無い。先ほど例に出した「技術」の場合は、「奪う」と「盗む」でこの違いも顕著に出る。

この考察を通ると、「盗む」は「自分のものにすること」に主眼が置かれていて、「奪う」は「相手から取り去ること」に主眼が置かれていると言えるかもしれない。

「恋人」は盗めない

ここで一つ面白い例を紹介したい。「恋人」である。恋人は具体物だと思って差し支えないだろう。そう仮定するならば、友人から恋人をこっそりとった場合は「友人の恋人を盗んだ」と言わなければならない。しかし、「友人の恋人をこっそり奪った」と言った方がしっくりこないだろか(これをアンケートで回答してもらえば良かったと後悔している)。

これはどうしてだろと思ったんだけれど、どうやら人間に対しては「盗む」という言葉が使えないようなのだ。例えばペットショップから犬を「盗」んだと言うことはできるけれど、他人の家から赤ちゃんを「盗」んだということは言えないだろう。「誘拐」という言葉が一番しっくり来るかもしれない。

また、自分が可愛がっている犬ならば「盗ま」れたというのはいい難いのではないだろうか。となると、自分が愛情を注いでいる「動物」もこの範疇に入るかもしれない。ここで動物の大きさが問題になりそうな気がするが、食肉が前提の牛が「盗ま」れたというのはあまり不自然な言い回しではないように思う。

「盗む」と「奪う」の話からは少し逸れてしまったが、「盗む」の意味の確定に一歩近づいたように思う。

「目を盗む」「目を奪う」

慣用句的な使い方にも目を向けてみよう。対象を「目」としてみる。「目を盗む」と「目を奪う」では全く意味が違ってくる。

「目を盗む」というのは、「盗む」に含まれる「こっそりと」という意味を以て使われる表現ではないだろうか。「目を奪う」は相手の目を「支配下に置く」くらいの意味が含まれているように思う。類似した表現に「心を奪う」がある。相手の心を「支配下に置く」こと=心を「奪う」ことだと言うことができるだろう。

ところが、ここで困った例が出てくる。「心を盗む」である。銭形のとっつぁんが言っているのだから、これは不自然な表現だと一蹴することはできまい。CHEMISTRYにも「I steal your heart」という楽曲があるし、ちょっと立ち止まって考えてみる必要がありそうだ。

映画「ルパン三世 カリオストロの城」の終末部分で言う「奴(ルパン)はとんでもないものを盗んで行きました。……あなたの心です」という台詞はあまりにも有名だ。これはルパンが怪盗であり、「盗む」ことを生業としていることに掛けられている言葉だ。

「心」というのは抽象物である。心は「copy」して自分のものにすることはできないので、「盗む」というのはおかしな表現である気がする。「心を奪われた」というのもよく聞く表現だろうし、こちらの方が適当なんじゃないだろうか。ここで言いたいのは「心を相手の支配下に置かれた」ということを比喩して言ったものだろうから、それを考えればやっぱり所有権が移る「奪う」の方が良い。

あえて「盗む」を理由を考えるならば。ここでは「心」が具体物として捉えられているのかもしれない。ここで考えなければいけないのは、ここでは受身の形で「盗む」が使われいてる点だろう。「自分の心」というのはある程度輪郭がはっきりしているものだと考えられるので、具体物のように銭形警部は表現したのかもしれない。

よくよく考えてみれば、心を「盗ま」れたとか「奪わ」れたというのはかなり自意識過剰な表現だ。別にルパンはクラリスの「心」を「盗」んだとかば「奪」ったという自覚があるわけではないだろう。もしかしたらあるかもしれないが、少なくとも無かったかもしれないという可能性を考えることはできる。

もしも「盗んだ/奪った」方に自覚がないとするならば、「盗まれた/奪われた」方は勝手に「盗まれ/奪われ」ているのである。勝手に「支配下に置かれた」と思っているのである。「私はあなたのものよ」と思っているのである。末恐ろしい話だ。まあ、クラリスさんは勝手に「盗まれた」って言われているだけなので、末恐ろしくはないわけだけども。

なんか色々考えてみたけれども、「心」は「盗め」るということで良いと思う。ここまで読んで反論がある人は、コメント欄に書いていただけるとありがたいです。

コメントへのコメント

ここからは、自由記述欄に寄せられたコメントに僕のコメントを付けていこうと思う。勝手ながら、重複しているかなという質問に関しては割愛させていただきます。


”問5の文に関しては、盗まれた人物に対して強引に、ではなく、例えば強固なセキュリティなど困難な状況にも関わらず強行に盗みを実効した、という解釈で自然だという回答を選択しました。”

「強引に盗む」についてのコメントですね。「盗む」には「人に気づかれずに」という意味があることに気づかされました。


”こっそりと、ではないでしょうか?”

同じ箇所に疑念を持たれた方はあまりいらっしゃらなかったように思いますが、この「と」がどういう役割を持つのか気になってきました……。


”<こっそり>の場合、
盗むは密かに取る事なので、取られた相手がいない場所で指輪を取っていった。奪うは無理に取り上げると言う意味が含まれるので、相手がその場にいるイメージです。
<強引に>の場合、
盗むは相手がいない場合で強引にとなると、盗む場所に鍵などがかかっており強引に抉じ開ける。奪うは相手の認識下で物を取ったイメージになります。”

相手がそこに居る/居ない、相手に認識されている/されていない、ということが意味を区別する中心になっているようですね。


”設問の例文の意図通り、盗むは他者の目のないところで、他者に干渉されることなく行われる行為、奪うは他者の目の前、他者が干渉し得る状況で行われる行為のような印象があります。こっそり奪った、ですと第三者に見つからないように、という印象を受けますし、強引に盗んだ、ですと金庫などを無理やり開けて、というような印象を受けます。”

おお、バッチリ意図を見抜かれておりました……。


”奪うを使うと所有権が奪った側に移ったような印象になりました。”

この例文のように具体物に限って言うならば、所有権は動作の主体に移るような気がします。抽象物になると、「奪う」の方では所有権がどちらにもなくなるわけですが。


”ダイヤの指輪が指にはめてあるか、飾ってあるかの差で自然であるかの印象が変わりますよね。”

そういう風に状況を補完して読んで頂ければ、こちらの意図するところにかなっております。


”個人的見解ですが、「奪う」は見せつける、「盗む」は裏をかくイメージがあります。”

これも相手に気づかれている否か、認知されているか否かという話に関わってくるかと思います。


”「奪う」の場合は、その時奪う相手がこちらに気づいている、というイメージがあります。
一方、「盗む」はその時相手が気づいてないというイメージがあります。
それなのにも関わらず「強引に奪う」という言葉にあまり違和感がないのは「盗む手段」が強引であるととれるからだと思います。(見つかるリスクが高い中、強引に盗みに入る、等)
また「こっそり奪う」については、相手が奪われることに気づいている以上、「こっそり奪う」ことは不可能のため、違和感を感じたのではないかと推測します。”

僕はこの説明が結構しっくり来ます。この辺りが、「こっそり奪う」よりも「強引に盗む」の許容度が高いことにつながっているのではないかと推測します。


”どちらの言葉も「相手のものを取る」という意味合いですが、「盗む」は相手に気付かれないよう、「奪う」は相手が分かるところで無理矢理にという意味に私は捉えています。ここまで答えたあとで広辞苑を参照したところ、盗むには「秘かに」という意味が含まれていました。”

今回は、講義で全く辞書の類を参照しなかったため、あえて辞書は引かずに考えてみました。これを書いた後に色々な辞書に当たってみようかと思っているので、ドキドキです……。


”こっそり奪った、強引に盗んだ、はイメージと違うと思いましたが、読んでみると大した違和感もなかったので「まあ自然」としました。「盗んだ」と言った場合は単なる物盗り、盗むこと自体が目的。「奪った」と言った場合は、盗ることによって持ち主に何らかの害を加えてやろう、例えば「ぶん殴られた仕返しに盗ってやろう」みたいな感情が含まれる気がしました。特に「強引に盗んだ」「こっそり奪った」と言うと、文章としては変なのかも知れませんが、これで精々苦しめやーいやーい、みたいな意地の悪さを感じます。”

しかし、銀行強盗は銀行からお金を「奪う」けれど、別に相手に危害を加えるという目的があるようには思えません。「強引に盗んだ」は一生懸命さが感じられるので、「やーいやーい」が成立するかもしれません。「こっそり奪う」も同じことが言えますかね。


”「盗む」はスリや万引きなど人目に付かないところでの行為を指すように思います。ですので、「強引に」とはあまり共起しないように感じます。
一方「奪う」は、行為というより「人からモノが離れていく」という事象に焦点を当てた動詞だと思います。
「こっそり盗んだ」は「ものが盗られている状況を誰も観察しておらず、後から盗まれたことに気がついた」という状況を指すことも可能だと思います。
一方「こっそり奪う」の場合そのような解釈はできず、「モノが盗られている状況を誰かが観察しており、その様子がこっそりだった。」という解釈になると思います。”

日本語学に少なからず関心のある方からのコメントなのかなと感じました(これを読むまで、「共起」という言葉を忘れていました)。「奪う」が「人からモノが離れていく」事にフォーカスしているというのは的確だと思います。対象が中小物である場合の「奪う」と関連してくるところですね。「こっそり奪う」の説明における「誰か」というのは行為主体も含む、という考え方をするならば「友人の恋人をこっそり盗んだ」も説明がつきますね。

終わりに

不完全なところもあると思うけれど、今回はこの辺りでやめにしておきたいと思います。
何か思うところなどあれば、コメントによろしくお願いします。


また、他にもアンケートを取って言葉について考えたものがいくつか。お時間があれば、是非どうぞ。
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