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DENGEKI vol.3 本選出場5団体の観劇レポート

今年も熱狂のうちにDENGEKIが終焉を迎えた。今年で三回目を数える若手演劇団体ナンバーワンを決めるこのイベントには、熊本外からも人が集まり、合計10団体で優勝盾を争う。

予選A、Bを勝ち上がった5団体が決勝を戦う。僕はこの決勝を見ることができたので、それぞれの団体への感想を書き残しておきたいと思う。演劇と出会って二年目のひよっこが書くものなので、ご笑覧を。

gojunko

唯一九州外の団体で、なんと東京からの参戦。来年度以降も、九州外からの参加者が居てほしいものだと個人的には願っている。

gojunkoの芝居はリアリズム的、あるいは現実主義的側面が強いものだと感じた。しかし、手法は斬新で、ある恵まれない一人の女性の心情を二人が交互に会話することによって物語が進んでいく。一人語りでは実現できないのは、「会話」である。人々の心の中には必ず複数の人物が住んでいる。それは現在と対比してまだ過去をひきずっている自分かもしれない。

最初に出てくる白紙の手紙は、終幕に近いところで過去の自分からの手紙だということが明らかになる。手紙を持ってきた人物は過去の自分かもしれないと観劇者は推定することができるだろう。そういう視点を持って頭の中に残っている物語を遡って行けば、また新しい発見があるかもしれない。

それから、二人で語ることの重大な効果がもう一つ。作中では主人公以外の人物たちが回想形式で幾度も出演する。その人物たちとの関係性を描くためには(身体演技的にも、言語演技的にも)二人の登場人物が必要であっただろう。

この物語にあるのは不幸な一人の女性の感傷である。しかし、それを二人の人物が交互に語ることによって、そこに新たな感情が生まれる。それをどのように解釈するかは、観客に委ねられることになるだろう。

劇団鳴かず飛ばず

コメディとして出色。最初から最後まで、観客席からの笑いが絶えることがなかった。思い切って熊本のことを馬鹿にしたことが、今回の成功に繋がったと言えるだろう。

小道具の使い方もとてもうまくて、特に「フラフープ」を様々な方法で使っているのが印象的だった。その他にも、くまもんのお面やくまもんのソフトハンマーを持ってくるなど、”熊本で行われるDENGEKI”というものを強く意識しているということが感じられた。この辺りも、決勝に進むことができた秘訣かもしれない。

演劇はややもすると抽象的な方向に走ってしまいがちだ。それで面白くなるのならば良いのだが、逃走の方法として抽象化を目指すことも少なからずみられる。その中で、鳴かず飛ばずは徹底して分かりやすい芝居を展開していた。すべったらどうしよう、などということは全く考えられていない。次々と繰り出されるギャグの数々が心地よかった。鹿児島での更なる期待を活躍し、また来年もDENGEKIでに出場されることを願いたい。次は、どのようなテーマで挑戦するのか。

with a clink

熊本唯一のミュージカル劇団ということで、劇中にもたくさんの歌やダンスが取り入れられているのが印象的だった。gojunkoがリアリズム的・現実主義的ならば、with a clinkはロマンチシズム的・理想主義的ということができるだろう。世界中の本を読んだ司書さん、子どもの頃に読んだ本を探して図書館に通い詰める青年、「ペーパーフィッシュとサイダーの海」というタイトルもロマンチックだ。図書館という場所はロマンチックな場所として機能するものかもしれないなあと、ジブリの名作「耳をすませば」を思い出しながら考えていた。

舞台装置が飛び抜けて良かったように思う。特に光る本棚には感動した。また、ガムテープを使うシーンで、その効果音として本当に後ろの方でガムテープをはがすなど、細かな演出を感じることができてそこも良かった。

中核的な役割を果たす人物は二人で、もちろんその二人が前景として昨日しているのだが、光景に四人の人物がいて、この四人の動きも楽しむことができた。人の使い方がうまい劇だったと言える。

劇団ヒロシ軍

昨年に続き、二度目の出場となる劇団ヒロシ軍。今回も順当に決勝に駒を進めた。
前回の作品も見ているので、ヒロシ軍らしい青臭さが出ているなあと今回は安心して見ることができた。逆を基本としつつも、実はその奥底にとてつもないリアリズムが潜んでいる。

まずは導入が見事。前説をしているのかと思えば、実はもうそこから芝居が始まっているということに驚き(僕がにぶかっただけかもだけど)。そこで観客を巻き込むことによって、終止拍手を貰ったりするなど、彼岸と此岸をつなぐ仕掛けがうまく機能していると感じた。演劇はどうしでも生ものだから、こうして観客を巻き込むことができる芝居というのは、一つの理想形ではないだろうか。

主人公をずっとヒーロー的に描いていくのだが、そのヒーロー像を終幕に近いところで徐々に解体していくのがまた面白い。主人公に感情移入していた人々は、すぐさまそこから距離を取ろうとすることだろう。脚本からも、あらゆるものを相対化しようという意識が感じて取れる。

それから、触れておかなければいけないのは持ちネタといっても良いペットボトル一気飲みである。今回は一回の芝居のうちに二回行い、いずれも観客の拍手を誘っていた。来年は更に進化した一気飲みに期待したいところだ。

DO GANG

参加三年目にして遂に優勝盾を獲得したDO GANG。今回が初優勝とはいえ、過去大会でも好成績を収めている彼らには他の劇団には見られないような風格が備わっていたように思う。

ネコという名前の犬や、吉田偽男(ブラフマン)という一匹と一人で物語が展開される……と書くとわかっていただけると思うが、序盤からシュールさ全開の芝居であった。そのままシュールで押し切るのかと思いきや、ちゃんと骨のある物語も備えている。

ニートの吉田は人間の世界に絶望していて、死にたいと願う。しかし、死へと逃避したところで現状が変わるという保証はない。もしもあの世があれば、そこで働かなければならないかもしれないからだ。これは現代社会を生きる僕らへの痛切な風刺になっている。逃げてもその先に快楽があるとは限らないのだ。

個人的には小道具にSurface Pro3が使われていて「良いなあ」と思った次第である。僕は初代SurfaceRTの非力さを身に染みて感じているから、ちょっと触らせてもらいたいなあと思いながら見ていた。

総括

今回のDENGEKIには僕も熊本大学演劇部(クマエン)の「冷たい味噌汁」に出演させていただいた。結果はぶっちぎりの予選敗退という結果になってしまい、去年のクマエンの二の舞という形になってしまったんだけど、毎年重要なことを学べているような気がする。シビアな勝負の世界で戦って「悔しい」と感じることはとても大事なことだ。

前回・前々回優勝の不思議少年が不在の今大会ではどの団体が優勝してもおかしくなかった。いや、不思議少年が居たとしてもどこが優勝していたか全く分からなかっただろう。結果としてはDO GANGの優勝ということになったが、他の団体も票が拮抗していたし、個人的には劇団鳴かず飛ばずが一番良かったと思っている。もちろん他の劇団も良かったのだが、上でそれぞれの魅力については書いたので割愛する。

来年も開催されたら、僕は絶対に観劇に行きたいと思っている。どんな劇団が登場するのか、そしてどこが優勝するのか、今から楽しみでならない。
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