忍者ブログ
あとーすログに引っ越しました!

LiteraTech風見鶏

Home > ブログ > > [PR] Home > ブログ > 演劇 > 熊本大学演劇部「赤信号でもススメ」 観劇してきました

熊本大学演劇部「赤信号でもススメ」 観劇してきました

12月13日の14:00~と19:00~、14日の14:00~の3回、熊本大学演劇部(以下、クマエン)の公演が行われた。僕は最初と最後の2回観た。力のある良い芝居を見観ることができた。


以下、あらすじ。
売れない劇団熱帯低気圧は大きな公演を間近に控えていた。そんな中、劇団員のマイコがお金を持ち逃げしてしまう。焦った座長のハジメは、結婚資金の頭金として母親からお金をせびることを決意する。しかし、結婚相手などいないし、協力してくれる女性もいない。そこで、劇団員のケイジに女装をさせて何とか誤魔化すことにする。


あとはまあ、有名俳優の兄と演技に対する考え方が違ったり、妹はその二人の兄の考え方の違いの間で悩んだり、といった内容だった。最後には母親がハジメのことを認めて終了。大団円。最後にどんでん返しがあれば「なーんだ予想通りの結末だった」なんて言われずに済んだかもしれないけれど、終わり方に関して文句はない。ケイジの女装を見破れなかったハジメの兄の滑稽さが際立つ終わり方で、面白いなあと思った。

コメディベースの展開にシリアスな場面や警句を混ぜ込む、ある種の型通りのお話だったから、まず女装を見破られるか否かという一本のストーリーラインを笑いながら楽しむことができる。あとは、劇中に出てきた「リアル演劇」ということについて考えさせようというのがこの脚本の意図では無かったろうか(違ったらごめんなさい)。

劇中で明言はされなかったものの、舞台は近未来であったはずだ。日本でも同性婚が認められるようになった未来。そして、二十面相事件以来「リアル演劇」がよろしくないとされる未来。これはある種のディストピア(と書けば、少しかっこよくなるかな)を描いている。現代でもテレビドラマでは下手くそなアイドルたちが演技をしていて、ストーリーもくだらない(ということになっている)。そんな状況がこのまま続いた後に想像される世界が、つまりこの芝居の世界だったのだろう。

兄が漫画原作でも何でもないドラマで突如として「出でよ、ブルードラゴン!」と叫ぶシーンがあって笑いを誘っていたけれど、あれが現実になったらと思うと恐いし、そういう現実が来ても別におかしくない。そういう風に価値観が更新されることはあり得る。僕だって、歌舞伎を手放しに面白いと絶賛することはできない。時間が経っていけば、「リアル演劇」などと中傷されることも考えられないことではない。何か事件がきっかけとなっているのなら、なおさら。

ただ、今回の芝居がいわゆる「リアル演劇」であったかというと、それも分からない。ギャグマンガ的・アニメ的なストーリー展開だったから、これを「リアル」として捉える人はいないだろう。なんと言えば良いのだろう、僕にはその矛盾が何ともいじらしく見えたのだ。

とまあ、自分でそんな風に勝手に考えたことも含めて、僕はこの芝居を「おもしろかった!」と評することができた。あとは、思いつくままに指摘してゆく。


・もしも舞台が本当に近未来であったとするならば、それをもう少し全面に押し出しても良かったかもしれない。「二十面相事件」などと聞いたことのないワードが出てくることからも推測することはできるだろうが、もう何個か散りばめても良かったのではないか。あるいは、僕が気づかなかっただけかもしれない。

・ハジメの兄と妹が踊るシーン。二回とも観て二回とも兄が父親の遺影を帽子で隠していたので、これはリアル演劇に固執して死んだ父親の否定を表しているのかなと思った。その遺影は、彼らが登る「トップへの階段」の上にある。兄にとっては、父親は上にいる存在であり、かつ否定すべき存在だったのだ。違ってたらめっちゃ恥ずかしい。

・ケイコと電話番号を交換するシーン。あの時に妹と母親はケイコが男であることを見抜いていたはずだ。母親の「別に偏見はないけれども」という発言から間違いない。妹は何故ケイコの電話番号を訊いたのかと考えるときに、僕は真っ先に「ケイコの性別を知るため」という風に考えた。赤外線通信で送信したら、きっとケイコの本名で登録されるからだ。しかし劇中では、妹との電話番号交換は後に稽古場を訪れるための布石として、兄との交換は有名人であるにもかかわらず交換する=ケイコに好意を抱いていることの表れ、を示すために用いられる。僕は密かに、妹がラストシーンで「お兄ちゃん、電話帳開いてみて。ケイコさんの名前ある?」と訊くのを期待していた。ここ、長くなってしまった。

・ハジメがうどん屋で財布を無くす件はいらなかったと思う。とても滑稽でシーン単体は面白く観ることができたけど、物語上の役割がいまいち分からなかった。財布を探すために更なる展開があるのならば、物語に深みが増して良いと思うのだけど、すぐに見つかってしまっては意味がない。

・最後が大団円なのは良いんだけど、母親がハジメを許す理由に乏しい。もっとガッツリと劇中劇の内容を見せて、母親から理解を取り付けた原因を示すべきだと思う。言うのは簡単だけど、きっと実現は難しい。でも、そうすればもっと意味のある脚本になると思う。

・一日目は卓と同じ側にいたから全然気づかなかったけど、二日目に反対側から見たら卓が丸見えなのはめちゃくちゃ気になった。舞台で遊ぶのは良いけれど、卓が見えるリスクを冒してまであの形状にする必要はあったのかな、という疑問も残る。特に親父の遺影役がジャージ姿で卓についているのは大変気になった。せめて卓につく人に何か統一感を持たせるべきだったと思う。衣装揃えるとか。黒子なんかは出てきても「見えない約束」として処理することができるから、何かそういう工夫が欲しかった。

・舞台構造に関してもう一つ言うと、途中でお客さんを入れるときにも、後ろから入れることができないので、入ってくるときにめっちゃ気になった。

・ただ、二つの場所の距離を表すことができているのは良かったし、面白かった。真ん中の台もうまく使えていたし、演劇でしかできない手法ではあると思う。メリット・デメリットあると思うけど、手法と面白かったので◎である。

・ていうか、全体的に舞台凝ってた。面白かった。照明もたくさんあったなあ。

・衣装めっちゃ良かった! かーみんのセーラー服がちょっとわざとらしいように感じたけど、あれはリアル演劇が衰退した未来においては制服はキャラダチしなくちゃいけないのか、するとさかほーの普通のスーツが「地味」と言われていたのも頷ける…なんて一人で考えて盛り上がってたけど、冷静に考えたら違いますね。

・衣装続き。バルタンの和服、せのの有名俳優風の衣装が特に良かった。わざとらしくない程度に演劇チックだった。衣装担当の演出に拍手。

・音響も効果的に使われていて楽しかった。ややミスが目立った感はあるけれど。

・照明も色を結構使っていたけれど、印象に残るような演出は無かった。まあ照明ってそんなものかも。





役者について。僕が言えることじゃないけど、ということも含めて。ご了承願います。


・全体
稽古の時間が足りていなかったという話を聞いていたけれど、それが何だか分かるかなあという感じだった。台詞を噛む・間違える回数が多い。自分もよく間違えるのでまあそんなもんかという気持ちで観ていたけれど、例えばもしもこれがお金をとる公演の場合、「完成度」というところで一つ問題があったのかもしれない。その辺、僕の主観では無くてちらほら耳にします。

・松尾壮将(松尾くん)
こんにちは、はじめまして。下の名前は何て読むんだろう? とりあえず、松尾くんと呼ばせていただくことにします。何かあだ名ついてたら教えてください。
彼の演技は初めて見たのだけど、やや固さがあるものの声はしっかりと出ていてメリハリも効いていて、なかなかしっかりできているなあと思った。堂々としてる。経験者なのかな? 全身も去ることながら、脚が細いので女装させる役としては良いチョイス。

・坂本峰(さかほー)
ハジメの周りからの評価って「一途でまっすぐ」とか「適当」とか一見矛盾するものなんだけど、さかほーがやるとうまい具合に止揚されているような気がする。ああ、いるいるっていう感覚。全体的にいい意味で「気の抜けた」演技、僕は好きでした。
ただ、これは本当に僕が言うなよって話なのですが、滑舌にやや難アリかな? 役者としての味はもう十分にあると思うので、長ゼリフや演技的に演技するところをもっとはっきり言うことができれば良いんじゃないかなと思った。僕は、長ゼリフと劇中劇のところ以外はだいたい聞き取れました。クマエンで今後に期待したい人ナンバーワンです。あの演技、好きだよ!

・山崎葉月(葉月ちゃん)
成長著しい。場数を踏んだ成果でしょうか。DENGEKIのときに繰り返し、ゆっくり話すようにと指導されたのが効いたのか、めちゃめちゃ伝わりやすい演技だった。ただ、他の役者と比べると少し表情に乏しいかなという印象もアリ。そういう演出だったのかもだけれど。
ただ、通常の葉月ちゃん(最近あんまり会ってないけど)からの変身ぶりは凄くて、それゆえ感じるものは僕の中で多々ある。今回の芝居では恐らく演者中もっとも普通の人であることが求められる役だったのではないでしょうか。そうか、そう考えると、あまり表情豊かすぎても困るのか…。世渡り上手で物事を冷徹に見ている感じは出てた。今度は、何か面白い役に抜擢されることを期待しています。

・清田奈々美(かーみん)
牛山ホテルも観たけど、もうかーみんは一つ完成されているなと思う。それは入部当初から思っていて、抜群にうまい。僕がとやかく言うのも恥ずかしいので、何も言うまいと思います。
ただ、これからは「かわいい」役以外にも出て欲しいなという希望が。毎回きゃぴきゃぴした感じが全面に押し出されてると思っていて(牛山は少し違うかもだけど)、そういう感じじゃない役が観たい。これは次の脚本・演出さんへの要望です。

・瀬上大輝(せの)
牛山ホテルの時にも書いたけど、成長しすぎていてマジで引くレベル。入部当初は経験者だったらこんなもんかなくらいだったんだけど、今では僕の中でケチのつけようがない。合宿辺りからヤバい。何本もの作品に出たのが功を奏したのだろうと思う。頑張った人には、やっぱり良いことがあるものです。努力の賜物。褒めすぎも良くないから、これくらいにしておく。
ただ、何だか「いやらしい」役が多い気もするので、次は違う感じのが観たい。あと、声の出しどころ(?)がどの役でも一緒のような気がしてて、声の出しどころまで変わるような役が良いなあ。声の出しどころって何だという文句は受け付けます。

・宮崎恵里(バルタン)
正直、台本の読み合わせをしているところに初めて遭遇したとき、凄く独特の読み方をする子だなあと思ってた(ごめん)。でも、めちゃくちゃ味のある演技になってて、老婆役ならクマエンで右に出るものはいないんじゃないだろうか。そういえば前の公演も老婆だった。演出ナイスチョイス。かーみんとかせのにも同じこと書いたけど、バルタンの違う姿に期待。
あと、今回の髪型めっちゃ良かった。役に合ってた。

・白武司(しらたけくん)
最後のちょい役だったけど、印象に残るおいしい役だった。ずるい。
DNGEKIのときより落ち着いて演技ができていたように思うのは、あまり気負っていないせいか、それとも努力の成果か。いずれにせよ、今回堂々としてたし良かった。次回は、もっと大きな役に期待。


僕の中では、やっぱりせのとかーみんがずば抜けてうまいなあという印象。他の演者も味があって良いと思うけれど、「上手い人」と訊かれたらこの二人かな。自分のことを棚に上げて、贔屓目無しに、一観客として見るとそんな感じ。
PR

Comment0 Comment

Comment Form

  • お名前name
  • タイトルtitle
  • メールアドレスmail address
  • URLurl
  • コメントcomment
  • パスワードpassword