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澁澤龍彦編『変身のロマン』を読んだ。

変身のロマン (学研M文庫)



『変身のロマン』というアンソロジーを読んだ。思えば、違う作家の作品がたくさん詰め込まれたアンソロジーなるものを読むのはほとんどはじめてのことかもしれない。

本棚には『源氏物語 九つの変奏』とうアンソロジーが入ってはいるのだが、なかなか手を出すことができない。そういえば、これは僕の好きな江國香織と金原ひとみの著作が入っていたから買ったのだと思いだす。


さて、この『変身のロマン』は文字通り「変身」、もっと正確に言うならば「メタモルフォーシス」に焦点を当てて編まれたものである。まず、ざっと全編の簡単な感想を書いてみようと思う。


上田秋成「夢応の鯉魚」

彼の最も有名な著作『雨月物語』からの一篇。ザ・日本の説話とう感じが僕はしたのだが、他の人が読んでみるとどのような感想を持つだろうか? このような説話性というか説教臭さが日本大衆小説の根幹にあったような気がするのだけど、最近はこういうものもなくなってしまったように思う。現実から乖離したある種の不思議さを感じた。

泉鏡花「高野聖」

このアンソロジーの中で最も長い作品であった。また、著作から余程年月が経っていることもあり、かなり読みにくいという印象を受けた。小説の語り口が独特で、それも読みにくさの一因なのかもしれない。最初から最後まで何が書いてあるのかよくわからなくて退屈をしていたのだけれど、一番詩顎だけは、本当に面白かったです。二回くらい読むと、良さがわかるかも。僕には、これをもう一度読む元気はないけど。

中島敦「山月記」

僕が通っていた高校の教科書には、この「山月記」が載っていて、僕も国語の授業でこれを勉強した覚えがある。当時は特に何も感じなかったものの、今の状況で読んでみると、色々と感じるものがありますね。時間の経過というのは残酷なものです。戻ろうと思っても、絶対に戻れない。陳腐だと分かっていても、自分より若い者に「今を大切にしろよ」というメッセージを与えずにはいられないのが僕ら人間なのかもしれない。

太宰治「魚腹記」

僕はいわゆる「いやらしい」太宰が好きなので、この話はあまり好きになれなかった。とはいえ、「竹青」や「清貧譚」と同じように古典作品を換骨奪胎した作品も太宰の特徴ではあるので、無視はできない。僕には変身の理由がよくわからなかった。何か相当なことがないと、変身せざる理由がないと変身をしてはいけないのではないかと僕は思うのだが、この作品の変身にはそれが感じられない。

安倍公房「デンドロカカリヤ」

恥ずかしながら、安倍公房の作品を始めた読んだ。なるほど、賞賛する人が多いのもわかる、といった感じ。エログロナンセンスの系譜にこの作品はあるのだろうと感じた。とはいえ、少し調べた限りでは安倍公房は他の作家をほとんど認めていなかったらしく、何かの系譜の中に彼を位置づけるのは少々失礼なことなのかもしれないが。顔が裏返る、という表現が面白かった。さてさて、ここから何を読み取るのか。

中井英夫「牧神の春」

三大奇書の一つ、「虚無への供物」作者である中井英夫氏の作品。突然始まった変身に対して、僕らはどのように対応するのだろうか。少なくとも、正気でいることはできないであろう。この作品は、その疑問に対する一つの答えを提示しているように思われる。もちろん、答えは無限にあるのだろけど、どこかこれは説得力を持った答えである。

蒲松齢「牡丹と耐冬」

中国文学についてはあまり詳しくないが、なんとなく持っている中国文学のイメージと合致するものだった。『金瓶梅』と同じ匂いがするといえば良いのだろうか、どこか艶っぽい作品となっている。面白いと思ったのは男の女たちに対する対応である。これを現代社会に持ち込んだならば、男は「ありえなーい」と批判されることだろう。そういう男が普通に存在している社会を見て、僕は色々と感じるところがあった。


<h4>オウィディウス「美少年ナルキッスとエコ」ナルシズムという言葉の語源がこのナルキッスの物語にあるということを知っている人は多いと思うが、実際に作品を読んだことがある方はそう多くはないのではないだろうか。恋をするということがいかなるものかについて考えさせる。なるほど、自分を自分と認識していなければ、好きになってしまうこともあるだろう。そういえば、ここには同性愛的な考え方もあるのだろうか。

ジャック・カゾット「悪魔の恋」

やたらと短い話だった。一読しただけでは何のことやらわからず、現在もやもやしているところである。約束を破るとどのような罰があるのか、罰はないのか。

ギョーム・アポリネール「オノレ・シュブラックの失踪」

発想が面白く、SF的だと思った(星新一的だ! と思ったのだが、各方面に失礼な気がするのでSF的と言い表した)。奇怪で入り組んだ話が多いのか、この小説の分かりやすさはありがたい。

ジョン・コリア―「みどりの想い」

そろそろ各作品についてのコメントを書くのがめんどくさくなってきたが、頑張って書いている。
蠅の花も伏線なのだと気づいたとき、僕は感動したのだが、勘の言い人は最初の方で気づくのであろうか。自分が植物に変身してしまったときに、どう考えるだろう、ということを想像して読んだ。もっと絶望が広がるような気がしていたのだが、読んでいる限りでは、割とあっさり受け入れているのが面白かった。

フランツ・カフカ「断食芸人」

そこは「変身」を持ってくるべきだろうと思ったのだけど、紙幅の関係もあってこちらにしたようだ。いやはや、面白かった。僕は人間のエゴが見える作品が好きなので。断食芸人を殺したのは、世間の「かわいそう」という風潮である。近年のバラエティが芸人を殺しているのに似ているかもしれない。倫理的観念が正しいとは限らないのだ、いつの時代も。

アンデルセン「野の白鳥

童話というものを久しく読んでいなかったのだが、アンデルセンって滅茶苦茶面白いじゃないですか。ちゃんと筋があるし、一応感動する。まあ、この感動があまり好きじゃない人もいると思いますが、綺麗に収まっているのは好感が持てますよ。
一番最後の服だけ編めなかったのには、何か意味があったのだろうか。ただ、時間がなかったことを表したかっただけなのだろうか。

花田清輝「変身譚」

メタモルフォーシスに関しての考察が記述してある、半分冗談みたいな評論。いや、でも面白い。衒学趣味的なところがあるような気がしなくもないけれど、全てを理解していないので何ともいえない。もしかしたら、凄いのかもしれない。



ざっと、全部の感想はこんな感じである。
本来ならばここでメタモルフォーシスの効果について僕の意見でも述べておきたいところなのだが、僕は別にこの現象に惹かれるものがなかった。お手軽に奇異を起こすことができるから、装置の一つとして機能しているんじゃないか、というくらい。カフカの「変身」なんてまさにそうで、カフカの作品であれが最も読まれているのは、単純にその奇異性に惹かれてのものではないかと思っている。

まあ、でもこれから何かを読むときに「変身」という一つの見方が加わったのは大変嬉しいことである。
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