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幸田露伴『五重塔』を読んだ

五重塔 (岩波文庫)


今までどうしてこの本を読んでいなかったのか、僕は非常に後悔している。
読書会の課題図書であったため、僕はこの図書を選定してくれた人に感謝をせねばなるまい。

葛藤。僕は小説の中で、葛藤のある小説が好きだ。そういう小説は僕に考える余地を与えてくれる。もちろん、それらの作品の全てを名作と呼ぶわけではないが、少なくとも想像の余地を与えてくれるから好きなのだ。

そういう意味では、僕の好きな『人間失格』は葛藤の少ない小説である風に思う。主人公は、葛藤することを拒絶している。ううん、好き嫌いを判断するのは難しいことです。


さて、『五重塔』に話を戻したいと思います。
「エゴイズム」というキーワードで以てこの小説が語られることが多いようですが、僕の知っているエゴイズムとは違う世界がそこには広がっていました。

それは、おそらく「人情」というものが織り交ざっているから、この話がより複雑になっているのだと思います。源汰も十兵衛も五重塔を作りたいという気持ちはある。「エゴイズム」というものがキーワードであれば、お互いが譲ることなく話が進んでいくことでしょう。

しかし、最初の方で源汰は十兵衛に五重塔建立を譲ろうとする。ただし、自分も建立に参加するという条件で。しかし、十兵衛はこれをはねつけてしまう。多くの読者はこれに共感できないことだと思います。この時点で、十兵衛という魅力的な登場人物ができあがる。

僕は十兵衛に共感することはできないけれど、十兵衛の気持ちがわかるような気がする。共感できないのに分かるというのは、作者の力によるところが大きいように思います。

また、僕は幸田露伴にある種、実篤文学と似たような匂いを感じました。
と言っても、それは「特異なエゴイズム」という括りでしか言い表せないものなのですが。


とにかく、面白い作品でした。
まだ読んでいない方は、是非。



五重塔 (岩波文庫)
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幸田 露伴
岩波書店
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