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尾崎翠『第七官界彷徨』を読んで

第七官界彷徨 (河出文庫)



読書会の課題であった。毎度と違うのは、この本を僕が選書したということ。前回の選書『浮雲』からもう四か月も経つというのだから、時の流れは本当に早い。

今回の作品は『浮雲』なんかよりも数段読みやすかった。時代が下がるにつれて、やはり日本語の感覚が私達と近くなってくるのであろうか? 同じ時代の作品であっても読みやすいものと読みにくいものがあるので、なかなか判断できないところである。


さて、まずは僕がこの本を課題図書として選んだ理由を少し書いておこうと思う。
僕はアーバンギャルドというバンドが好きで、この前も新アルバム「鬱くしい国」を買った(初回限定盤で!)。滅多にCDを買わない僕が買うのだから、そのくらいには愛着のあるバンドだ。

そのアーバンギャルドの楽曲「都会のアリス」に次のような一節がある。
「丸の内じゃ悪魔になれなくて メトロでカクテル・キスしたの 電車はまっすぐ地獄行きなの 第七官界彷徨って」
アーバンギャルドは文学や哲学、様々な領域からの引用を得意としていて、この「第七官界彷徨って」というのも『第七官界彷徨』を意識している。

この『第七官界彷徨』という作品、大声でメジャーだという作品ではないのだけれど、いかにもアーバンギャルドの松永天馬さんが好きそうな作品だ。
僕は、この作品を始めて読んだときに太宰の匂いを感じ取った。天馬さんは太宰が好きだ。「ワンピース心中」という曲には「玉川上水 さらばふたりグッド・バイ 未遂に終わって あなたひとりDogDie」という歌詞の一節がある。

どこが太宰に似ているのかというと、恐らく感情表出の手法だろう。太宰の作品(例えば、『人間失格』『女生徒』『斜陽』)の主人公たちは激情を知らない。怒っているときも、悲しんでいるときもある。しかし、その感情は極めて温度が低い。低い温度で、じわじわと僕らの心を侵食する。

『第七官界彷徨』の主人公町子はとてもよく泣く。しかし、その涙に熱さを感じることができない。僕には、作者が意図的に熱っぽさを排除しているようにしか思えない。物語は静かに進行していく。登場人物たちは現在の状況に強く抗うことはなく、静かに頽廃的に時の流れに身を任す。

とにかく、太宰が好きだよっていう人はこちらも読んでみると気に入るんじゃないかと思う。ので、よかったら手に取ってみてくださいね!

第七官界彷徨 (河出文庫)
尾崎 翠
河出書房新社
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