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トオマス・マン『トニオ・クレエゲル』を読んだ。

トニオ・クレエゲル (岩波文庫)


トオマス・マン『トニオ・クレエゲル』を読んだ。さて、ところで僕はこのトオマス・マンという者の伝記的事実を知らない。もちろん、僕だって彼の名前くらいは聞いたことがある。馬鹿にしちゃいけない。しかし、そういえば彼がどこの国で生まれた人なのかも良く知らないし、どうして偉い人なのかも知らない。

調べてみると、ドイツ人。『ヴェニスに死す』を書いた人だと言われれば、ああそうかそうか位は言うことができる。しかし、ドイツの小説が皆こんな感じなのかと考えると、僕はもうこれ以上ドイツの小説を読むことができないかもしれない。そこそこに面白かった。面白かったけれど、もう一作同じ作家の作品を喜んで読むかと訊かれれば、「教養の為に」と応えるしかない。

そもそも、僕は同性愛というものが理解できないからいけない。いや、同性愛者を非難するわけではない。同性愛者が異性愛者の感覚を共有することができないように、僕も同性愛者の気持ちを共有することはできない。だから、トニオがハンスに恋をするという気持ちが、どうしても分からない。これに共感することができたら、この小説をもう少し面白く享受することができたのかもしれない。

それから、女画家と話をするシーンがあるけれど、そこで言っていることの意味が半分くらいしか分からない。もちろん、これは僕の読解能力が低いことも要因の一つであるとは思う。二、三回読んで初めて了解することのできた部分だって多々あるのだから。
ただ、もう少し分解することができたろうにとは思う。僕も自分で作品を書くときは大概セリフが長くなる方だが、ここまで長くはならない。そもそも、こんなに複雑なことを人はこんなに纏まって話すことはできない。できないし、文章にするならもう少し詳しく書くべきだと思う。羅列しているだけなのか、纏まって書いているのか、どっちつかずの状況であると言えないだろうか。

まあ、訳が少し古いというのも読みにくさを助けることになっているのかもしれない。名作は十年に一度くらい誰かが翻訳すると良いのではないかと思う。あるいは、換骨奪胎して現代人日本人にも分かりやすいように翻案・超訳するとか。源氏物語が漫画化されて久しい。そのくらいしても、別に構わないのではないかと思う(そういう試みを、自分でやってみようとも思う)。

ただ、最後は非常に良かった。自分の愛した者二人が、お互いを愛するようになってしまっている。この状況は、何とも言えず良かった。僕は生まれてこの方、異性愛者だけれど、この場面だけはトニオの心情を想像することができた。いや、トニオのこの心情というものは、ほとんどの者が想像をするしかないだろう。そこには、想像の余地があった。作者の押しつけではなく、僕はその余地の中で考えることができた。ああ、もしも僕が同じような状況に立ったとき、果たしてどのような気持ちになり、どのように考え、どのように行動したかと。そういう余地を持つものが、小説として一級だと僕は信じている。

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