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名作を読む 新見南吉「手袋を買いに」

新見南吉という作家をご存じでしょうか。
名前は聞いたことがなくても、「ごんぎつね」を知っている人は多いでしょう。
そう、新見南吉はその「ごんぎつね」の作者です。

仮想の世界イーハトーブを描いた宮沢賢治と同じ時代に生きた童話作家で、「北の宮沢、南の南吉」と呼ばれ、賢治とは好対照をなしていた人物です。

今回、この作家の「手袋を買いに」という作品をご紹介いたします。
この作品には、ごんぎつねと同じようにキツネが登場します。

話の筋は以下の通り。

ある冬の朝、キツネの母親と息子が住処の洞穴から出てきて雪の中で遊んでいました。
子狐は無邪気なもので、雪の冷たさも忘れて遊んでいます。
母親は、子狐がの手が霜焼けにならないか心配で、手袋を買ってやろうと思います。

そこで二人で人間の町に手袋を買いに行こうとします。
しかし、母親は以前人間に追いかけられたことを思い出し、足がすくんでしまいます。
そこで、子狐が一人でおつかいに行くことになります。

初めて来る人間の町。
片手だけは、お母さんが人間の手にしてくれています。
人間は悪いやつだから、狐だとわかると捕まえられると言い含められている子狐。
なので、こちらの手だけを出して、手袋を売ってもらうのです。

ところが、子狐は人間の手とは反対の手を出してしまいます。
それにも関わらず、手袋屋のおじさんは手袋を売ってくれました。

子狐は思いました。
人間は悪いやつだと思っていたけれど、いい人もいるじゃないか、と。

そこへ子守歌が聞こえてきます。
狐のおかあさんに似たようなやさしい声です。
人間の子供も、もう眠りにつくころなのです。

子狐は早く帰りたくなって、跳んで帰りました。
お母さんも子狐を心配して待っていました。
子狐は言います。「母ちゃん、人間ってちっとも怖かないや!」
母親は「ほんとうに人間はいいものかしら、ほんとうに人間はいいものかしら」と呟きます。



この作品はとても童話らしい童話なあという感じがします。
描写がとても綺麗ですね。

最初のシーンなんか大好きです。
子狐の目に何か刺さったの思ってこちらまで心配したのに、それが太陽光線だったなんて。

私たちは、初めて目にする自然の感動というものをもう忘れてしまっています。
初めて太陽を見た日のことなんて覚えてないでしょう?
その感動を疑似体験できるのです。
あ、初めて太陽を見るときって、こんな感じなんだ。


終わり方も好きですね。よくある結末な気もしますが、何か真理を表している気がするのです。

狐を追いかけるような人間もいるけれど、黙って手袋を売ってくれるような人間もいる。
しかも、人間の子供と自分は何も変わらない。
人間って、案外捨てたもんじゃないぞと思えるのは、すごく良いと思うのです。
……まあ、母狐の場合は友人が家鴨を盗んでいるので、追いかけられるのは当たり前だと思うんですけどね。

ただ、僕がよくわからないのが、母狐の行動です。
どうして子狐を一人でおつかいに行かせたのでしょうか。
家鴨を盗んだらお人間が追いかけてきたということから、母親の意識には人間が危険な生き物であるという意識があったはずです。

この状況で、普通の母親だったら子供をおつかいに行かせるでしょうか?
だってこれは、戦争中に敵地におつかいにいかせるものでしょう。

ここは物語の構成上しょうがない、というべきなのでしょうか。
町へのおつかいが子狐だけでなかったのならば、この話は大幅に変わってしまうでしょう。
しかし、なんだか他の狙いがあるような気もするんですよね。
そこまで新見がうかつなのかなあ、とも。


とても短い作品なので、是非読んでみください。
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