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名作を読む 太宰治「葉桜と魔笛」






太宰作品の中で何が一番好きかと問われれば、

私は真っ先にこの「葉桜と魔笛」を思い出します。

と言っても、私はこの作品を長年愛していたというわけではなく、

本当にごく最近、この作品に出合ったのです。



物語の筋はこうである。



語り手である老婦人には、その昔妹がいた。

彼女は幼少の頃から病気を患っており、18歳になったときに遂に余命宣告をなされる。



そんな折、姉は妹が保管していた手紙の束を発見する。

封筒に書いてある差出人はそれぞれ違っていたが、

開封してみれば、それはすべてある詩人から送られてきた手紙であった。

さらにその手紙の内容から推察するに、二人は恋仲にあり、

しかも妹はすでに純潔を保てていなかった。



その発見と前後して、その男からまた一通の手紙が届く。

その内容は、夜六時になれば必ず軍艦マアチを吹きにきますよ、

というものであった。



しかし、この手紙の内容が明らかにされた直後に、

この手紙は姉が書いたものであることがわかる。

さらに、姉が発見したそれ以前の詩人からの手紙は、

すべて妹が自分で書いたものであることがわかる。



その二つの事実がわかったとき、口笛の音が聞こえた。

時刻はちょうど六時。もちろん、姉が何か目論んでいたわけではない。



何が起こったのかわからぬまま、妹は三日後に死んでしまう。





と、だいたいはこんな話である。

とても短い話なので、みなさん読んでもらった方が理解が早いかもしれない。

青空文庫にも入っています。



私が初めて太宰を読んだのが、恐らく他の多くの人もそうであろうと思うのですが、

『人間失格』だったのです。

私は、この作品が大嫌いでした。



ナルシズムと言い訳、自己肯定にあふれた作家であるから

私はこんなやつが目の前に出てきたら一発で嫌いになると思いました。

でも、「嫌い」と思うのも非常にエネルギーのいることで、

その「嫌い」のエネルギーで私にその作品を読了させてしまった太宰という作家は、

今までの私が好きだった作家と違った意味ですごい作家なのだと当時思いました。



それから「女生徒」や「斜陽」を読み、太宰の描く女性がいかなるものであるかを学びました。

私は太宰が描く女性は大好きです。

特に好きなのは「ヴィヨンの妻」に出てくる、ダメ男の妻です

。あのしなやかさが、私は大好きなのです。



さて、前置きが長くなってしまいました。

「葉桜と魔笛」に対する私の見解を述べたいと思います。



初読に際して、私は途中まで特に何の感慨もなく読んでいました。

手紙の中に出てくる詩人は、よくある私の嫌いな太宰でした。

調子のいいことを言う、ダメ男でした。



しかし、手紙の後に私のこの作品に対する気持ちががらっと変わることになります。

先ほども書いた通り、この手紙は姉が書いたものだったのです。

この事実が、いいじゃありませんか。

私はこのような女性を愛していたのです。



ダメ男を許容できる女性。

私はそういう女性を愛しているのだと思います。

だから、こういうダメ男を想定してい書いている姉も良いし、

そういうダメ男を愛することができるであろう妹も、

また良いと思うのです。



そう考えると、ややロマンチックすぎるような「葉桜と魔笛」というタイトルも

とてもいいもののように思えてきます。



太宰の言葉は綺麗で、私はこの句読点の打ち方というものには

尊敬の念を抱いています。



皆様、是非この作品を読んでみてはいかがでしょうか。

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