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伊坂幸太郎と森絵都

まず最初に断っておかなければならないのは、本稿が伊坂・森両氏の比較をするものではないということだ。
単純に、私の浅い読書歴史上で双璧を成すのが、この二人だというだけだ。

つまり、私はこの二人が大好きだということ。同年代の方の中には、私と同じように両氏が大好きだと言う人もいるのではないだろうか。

さて、私は現時点で刊行されている両氏の作品を全て読んだわけではないのだが、気の赴くままに、つらつらと、そして好き勝手に両氏への思いの丈をここにぶちまけてみたいと思う。

まずは伊坂。ちなみに、私が最も好きなのは連作短編集の『チルドレン』だ。後にも先にも、私はこれ以上に胸が高鳴る短編集を読んだことがない。

特に好きなのが、家裁コンビ陣内・武藤の話。キャラの個性は完璧。私は陣内が大好きで、陣内のように生きたいと思うことがある。最近になって再読してのだが、初読のときと相も変わらず「かっこいい!」の一言に尽きる。理屈抜きに、どうも私は陣内が好きらしい。それはつまり、きっと陣内は私に持っていないものを持っているのだろうと思い、悔しくもなるのだけれど。

氏の長編『砂漠』の一節を引く。

「これはトリックですよ。手品です」麻生氏が微笑みながら、肩をすくめる。目尻に皺が寄り、人の良さそうな顔になる。これは女性にもてそうな人だな、と僕も納得した。ユーモアがあり、軽やかで、知的そうだ。以前、西嶋が教えてくれた、「売れる、小説の条件」と奇しくも一致する。ユーモアと軽快さと、知的さだ。洒落ているだけで、中身はない。(pp.283-284)

超能力対決の前に出会った麻生氏の描写であるが、重要なのは彼ではなく、西嶋が言った言葉だ。「売れる、小説の条件」とは、「ユーモア」「軽快さ」「知的さ」この三本柱で成り立っているという。ただし、「洒落ているだけで、中身はない」

伊坂好きの皆様には、この言葉が自虐を含んでいることがすぐにおわかりいただけるかと思う。彼の文章の特徴はまさに、とびきりの「ユーモア」と、言葉の硬軟を使い分ける「軽快さ」、そして古今東西の芸術文化的知識や雑学を随所に織り込む「知的さ」にある。

伊坂は的確に自分の力文体を分析することができている。そして、謙遜を忘れない。「洒落ているだけで、中身はない」
いやいやそんなことはないと、彼の一ファンとして私は声高に言いたい。作者が自分の事を褒めないのであれば、ファンが褒めなければならない。

繰り返すが、彼の作品に登場する人物はとても魅力的である。例えば私は、陣内のようになりたい。
しかし、『砂漠』の西嶋のようにはなりたくない。彼の生き方は決してかっこよくないし、生きにくい。しかし、彼の価値観も分からなくはないし、かっこいいところもある。私は彼の生き様を見て、考え方を改めた部分がある。

このように、伊坂作品にえいきょうを受けて生き方や考え方が変わった読者もいるのではないだろうか。純文学だろうが、大衆小説だろうが、人の心を動かせば、それでいいのだ。「高尚」と「低俗」の違いなんていうのは高校の静物で習った「優性遺伝子」と考え方が「劣性遺伝子」の違いとおなじだ。便宜上そういう名前がついているだけで、どちらが劣っているということはないのだ。伊坂さんは、文句なしにかっこいい。

さて、森絵都の話に移ろう。
この作家を語る上で一番重要な作品はなんと言っても『カラフル』だろう。ハードカバー、文庫本ともに目の覚めるような真っ黄色の本で、この色にひかれてページを開いてみたという方も少なくはないだろう。

何が素晴らしいって、ラストがすばらしい。後輩が娼婦、という設定にも驚き。男友達の設定がやけにリアルなのも良い。森は女性であるはずなのに、どうしてか等身大の気の弱い男の子を描くことができる。
私自身、昔から気の強い方ではないので、主人公真に強く同調しながら読んだ記憶がある。初読は中学生の時であった。思えば、私の読書人生はあそこから始まったのだ。この本をきっかけにして、様々な本を読むようなった。

最近になって『ラン』を読んだが、文章が進化していた。もともと彼女は女性らしい軽やかな文章を得意としていた。しかし、そこは早稲田文学部卒、牛一は豊富だ。初期の作品では、その語彙力が十分に発揮されていなかったようにおもうが、『ラン』柔らかい口語の中にポンと硬質な言葉を織り込むことによって、彼女独自の文体を確立させている。

どちらかと言えば、私は森を「文体の作家」という風に評している。もちろん、ストーリーが周囲綱作品はいくつもあるのだが、それ以上に、彼女の文体には魅力がある。

対して、伊坂の魅力はやはりストーリーだ。あの軽快な語り口は好きなのだが、特異な登場人物たちがひしめく話の面白みと言ったらない。

また、森は孤独の作家であり、伊坂はそうではない。まあこれは、おおまかな傾向にすぎないけれど。森の作品の登場人物は、だいたいがはじめに孤独を抱えている。友達は少ない。
一方、伊坂作品の主人公は「友達なんていらない」という雰囲気を醸し出しているにも関わらず、仲間が多いよなという印象(『死神の精度』みたいな作品もあるけれど、つまり、それが例外ということ。森絵都作品だって、友達のいない主人公ばかりではない)。


予定していたより随分と長くなってしまった。
まあつまり、私は両氏の作品が大好きなので、色んな人に読んで欲しいということ。書店の新刊コーナーにだいたい並んでいるくらいのペースで出しているし、古本屋にいけば廉価でてにはいるものもあるので、まだ読まれたことのない方は、是非。





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