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柴崎友香「春の庭」を読んで思うこと。

『文芸春秋』2014年9月特別号掲載の柴崎友香「春の庭」と氏へのインタビュー、および選考委員の選評を読んだ。以下、その雑感を書きつけていこうと思う。物語の構成とかは書きますが、物語の重要な部分についてはたぶん書かないと思います。


まず読んで思ったのは、なんだか疲れるなあということだ。それは、芥川賞の選考対象になるような作品(あるいは作家)に独特な雰囲気なのかもしれない。ここのところいわゆる大衆向けの作品ばかり読んでいる節があるので、そちらに感覚の拠り所があるせいなのかも、とも。

また、急いで読もうと思ったのがいけないとか、姿勢が悪かったとかはあるかもしれない。……などと書いていると、本当に作品の評価というのは文脈に影響されるなあと思う次第です。三日くらいっかけてゆっくり読んだなら、また評価が違ったのかもしれない。

しかし、決して退屈ではなかった。いや、本当のところ言うとちょっと退屈だったけど。しかし、それを上回るパワーがあったように思う。物語の冒頭で一応の「謎」は用意されているし、それにそってストーリーが展開していく。物語の構成ということも、しっかり考えられているんだなあと感た。

一番興味深いなと思ったのは、太郎に対する自分のイメージ。三人称視点で語られていて、心情なんかにも入り込んで描かれている前半と、お姉さんの目線で描かれる部分とではかなり印象が違ってくる。この違いは一体何だろうと疑問に思った。見る角度によって物事は違って見えるのだという、本当に当たり前で何度も繰り返し言われてきて陳腐なことを、改めて実感した。

というか、この小説の人称って一体どうなっているのだろう。三人称視点で語られているかと思えば最後の方で「私」(=太郎の姉)視点になって、そして知らないうちにまた三人称視点に戻っていく。矛盾なく解決しようとするならば、きっと、これはお姉さんの一人称視点での話なのだろう。まあ、そのお姉さんが太郎の生活を全て知っていて、巳さんの過去も西さんの過去も全て知っているというのはおかしな話なのだけれども…。でも、そういう全知の存在としてお姉さんを仮定すると、物語全般、特に後半部で違った読み解き方をすることが出来るのではないだろうか。


ところで、選評を読んでいると「カメラみたい」「写真みたい」というような表現がたくさん出てきた。柴崎さん自身も、そういう指摘をされることが多くある、というようなことをインタビューで書いている。僕が疲れた原因はここにあるのかもしれないと思った。

柴崎さんも好きだと言っている漱石は、なんでもかんでも書きすぎる傾向があるような気がする。それも、無意味な情景を。東京の地図が頭に入っていない僕にしてみれば、東京の地名がどうだとか、本当にどうでも良い話なのだ。その点、僕の好きな太宰はそういうのを排除して、自己の内面の重要事だけを活字として残すように努めている気がする(本当に、気がするだけかもしれない)。

「意味」というものを考えてしまうと話がややこしくなるので詳しくはしないけれども、簡単に言うと、僕は意味のないものを極力排除してほしいと思う人間だ。カメラで撮ると、別に表したくなかったものまで写ってしまう。それは意図して排除したいと思ったものではなく、無関心なものが紛れ込んでしまうということだ。普通の作家は、意識したものしか書けない。それは柴崎さんだってそうだろうけど、彼女は意図していないものも書いているように見せているのだろう。それが彼女の優れているところなのだろう。僕は積極的には評価しないけれど。


しかし、選考委員の仲が悪いんじゃないかと選評を読んでいらぬ心配をしてしまった。そういえば、僕は選考委員の小説をほとんど読んだことがない。宮本輝の『青が散る』、小川洋子の『博士の愛した数式』くらいではないだろうか。おお、もっと積極的に読まなければ。彼等の中にどのような対立があるのかを知ることも、ミーハー趣味ではあるけれど、おもしろそうだ。

群像新人文学賞を受賞したと話題で名前だけはよく聞いていた「吾輩ハ猫二ナル」はあまり評判がよろしくなかったようで。ずっと気なってはいるので、機会があればいずれ読みたいと思っている。


今回は適当に書きつけただけなので、いずれまた思うことがあれば、しっかりした感想でも書きたいなあと思っている。
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